aptX-HD/LDACでも役不足?Bluetoothオーディオに感じる音質の壁とは。



ここしばらく、Bluetoothオーディオを試していて実感している事。

それはまず、その劇的な進化だろう。過去に比べればずっとBluetoothオーディオの音は良くなっており、また、aptX-LLによる音声遅延の改善も驚くべきもので、ついにBluetoothオーディオが実用に耐えるものになったと言い切って良いかと思う。


ただし。「良くなっているからこそ気づく」点が無いわけでもない。それは、幾ら改善したと言ったところで、最高音質を目指す場合には、Bluetoothオーディオにはやはり仕様上の「音質の壁」が存在するという事だ。

なお、それはaptX-HDだろうとLDACだとしても同様の問題を抱えている。


今回は、この辺り、ボクがBluetoothオーディオ、特にモバイル用途で現在感じている限界、つまりこの「音質の壁」について、および、そのBluetooth規格における制約による音質の劣化を最小化するためにはどういう点に配慮すれば良いかについて、整理して書いてみたいと思う。


圧縮×圧縮による劣化に対する考察


さて、Bluetoothオーディオを利用する場合、実際にどのように音声が再生されるかのデータフローについて理解する事は重要かと思う。

以下にBluetoothオーディオにおける、音声信号の伝送について図示してみたので、この図を利用して、この辺りで問題となるポイントについて説明したいと思う。


※なお、この図でオレンジ色で記載している部分に特に注目してほしい。


通常Bluetoothオーディオでは、Bluetooth送信側のスマホなどの機器で音楽再生を開始する。その後、Bluetooth受信側でその音声信号を受信し、音楽がイヤホンやヘッドホンから出力される事になるのだけど、その時の音声信号の流れはだいたい以下の通りとなる。

・音楽プレーヤーはローカルのmp3/AAC/FLACといったフォーマットの音楽データを無圧縮デジタルのPCMデータに変換し、これをBluetooth送信機に渡す。
・PCMデータを受信したBluetooth送信機はこれを受信機側で対応している伝送用のコーデックにより再度圧縮を行い、受信機側へ送信する。
・受信機は受信した圧縮データを再度伸張しPCMデータに変換、これをDACへ渡す。
・データを受け取ったDACでは受け取ったPCMデータをアナログの音声信号へ変換する。


さて、この流れを見てもらうとわかると思うけど、もし、音源にmp3やAACという非可逆圧縮音源を用いていると、Bluetooth送信機で再度別のコーデックで再圧縮されてしまう事になるのがわかるだろうか。

非可逆圧縮したデータをさらに非可逆圧縮するという処理は、アナログの世界ではコピーした書類をさらにコピーするみたいなもので、劣化する事は間違いなく、少なくとも音質的にも良い事ではないのが理解できるだろう。


また、もし音源の形式が192kHz/24Bitや96kHz/24Bitの形式となっている場合も注意が必要だ。

もし、この音声がaptX-HDで伝送されるとした場合、おそらくBluetooth送信機内でエンコードされる際に、aptX-HDで伝送可能な48kHz/24Bitにダウンコンバートされる事になるのだけど、このダウンコンバート時に音質が劣化する事も十分考えられる。

なお、Bluetoothチップ内蔵のサンプリングレートコンバータがどの程度の性能かはまったくわからないのだけど、同様の話として、過去にAppleTVで「44.1kHzの音声を全て48kHzに変換して出力する仕様」が話題になった事があり、その時の話では、「音がスカスカになる」といった問題も報告されていたりと、少なくとも、オーディオファンにとってはまったくうれしくない処理である事は間違いが無い。


とにかく、圧縮にしろダウンコンバートにしろ、「音質劣化を伴う変換処理」については可能な限り回避する事が望ましい、という事はBluetoothオーディオでは特に注意が必要なポイントだろう。


以上の通り、少なくとも、音質に配慮するのであれば、音源には非可逆圧縮音源を用いず、FLAC/ALACといった可逆圧縮音源か、WAVなどの無圧縮の音源を用いる方が良く、また、事前に信頼できるエンコーダ/サンプリングコンバータでBluetoothで伝送可能なサンプリングレート&ビット深度(aptX-HDの場合は44.1kHz/24Bitか48kHz/24Bit)にローカルでダウンコンバートしておいた方が、精神衛生上も良いと言えるだろう。

まあ、優秀なサンプリングレートコンバータとして定評があるのは、興味深いアップコンバートしながらCDリップする(つまり偽ハイレゾ音源を自由自在に作れる笑)機能も備えてるらしい「dBpoweramp」あたりになるのかなあ。無料で優秀なやつを調べた方が良いかも。






リアルタイムエンコード処理に対する懸念




なお、別の観点で音声をリアルタイムでエンコードしている点についても個人的には多少懸念を持っている。


過去にmp3の黎明期などにエンコーダーを幾つか試した人ならなんとなく同じような印象を持っている事だろうと思うけど、「リアルタイムで圧縮する」という要件自体が、なんらか圧縮効率を下げる要因にならないかという懸念である。


例えば、過去のエンコーダーの中には「2-Pass方式」と言って、可変ビットレート(つまりVBR)の音声ファイルを作成する場合に、1-Pass目では主に単位時間当たりのビットレートの割り当てを決め、2-Pass目でその結果に従って効率よく圧縮を行う、なんて物もあったりした。

そのため、個人的な印象としては、多少処理時間が長くかかっても、「じっくり圧縮のための計算をするエンコーダー」の方が優秀な印象を持っており、「ほぼ遅延の無い圧縮処理を求められているエンコーダー」はどこか処理を簡素化していたり、何か無理をしている分、圧縮性能が悪くなる要素があるんじゃないかと思っていたりする。


その結果、例えばAACコーデックによる伝送はVBRの256kbpsという事なのだけど、こういったエンコーダーのオーバーヘッドにより、その音質は実は「iTunesで作成したAAC音声ファイルの160~192kbps相当」になっているなんて事も十分にありえるんじゃないかということだ。


さて、上記は情報としての裏づけの無い、個人的な想像に過ぎないものの、実際にそのような状況が発生していると仮定した場合は、”高音質”と呼ぶには少しビットレートが足りないと言えなくもない。

特に、一定以上の品質のDACやヘッドホンで普段音楽を楽しんでいるようなオーディオファンであれば、普段聴きなれている水準から劣化した音で音楽を聴くことに少し抵抗があるため、結局ワイヤレスの利便性はあるとしても、音質に妥協できず、Bluetoothはやっぱりダメだという結論を出す事になるかもしれない。

※なお、オーディオファン以外は「そんなの聴き分けられるの?」なんて思うかもしれないが、プラシーボだろうがなんだろうが、理論的に音質劣化が発生している事が間違いない状況で音楽を聴き続けるのがどうにも居心地が悪いんだろうくらいに思ってもらって良い。パックの刺身を買ってきて、どうにも皿に移し替えないと気持ちが悪いのと同じだ(笑)


さて、こういった状況を改善するためには、もう少し圧縮率を下げ、ある程度余裕を持ったビットレートで圧縮&伝送すればよいという話になる。

こう考えると、さらに高いレートで伝送が可能となっている、aptX-HDやLDACを使えば良い、という風に思うかもしれないけど、まずaptX-HDについては、あくまで24Bitへの拡張に過ぎないので44.1kHz/16Bitの音声は従来のaptX同様に352kbpsで伝送する事になるので、ビット深度が24Bitの音源を聴く以外では、あまりaptX-HDに変更するメリットは無いと考えて良いだろう。


なお、SONYの独自規格であるLDACでは44.1kHz/16Bitのままでも最高990kbpsで伝送できるので、現時点において、音質観点ではLDACが最適解だと言って良いと思う。

でもまあ、LDACはSONY独自の規格であり、なかなか対応機器を探すものも難しいという課題もあって、その特殊性からは決して最適解と言えないのが難点だったりもする。


なお、CSR社(現Qualcomm)のサイトによるとA2DPの規格上のデータ転送の帯域は技術的にも2178 kbpsしか無く、ノイズや処理能力等の影響により、実用的な範囲はさらに狭い帯域となるようで、LDACみたいにギリギリまで帯域を使う仕様だと、環境によっては頻繁に音とびが発生する、なんて事態も招く可能性があったりする。


そういう意味では、あまり無理をして帯域を広げる事もリスクがあると言って良いと思うので、個人的にはAAC/aptXの伝送ビットレートを500~600kbpsあたりまで拡張してもらうのが、現行技術とのバランスを考えると最適解だとは思うんだけどなあ。


中からAstell&KernのXHA-9000を見てみよう


さて、次に、特にポータブル機で感じるBluetoothのハードウェアに関する制約についても思うところがあるので少し書いておきたい。


ボクの感じている課題。それはBluetooth機器が「小型で省電力」である事に大きくウェイトが置かれ、音質面については何らかの妥協の上に成り立っているように感じている点である。

この辺り、あまり言葉ばかり並べてみてもなかなか伝わらないと思われるので、本説明のため、現時点で、aptX-HDに対応している唯一のBluetoothオーディオレシーバであるXHA-9000を例にあげてボクの感じているところを説明してみたいと思う。


Astell&Kern for SoftBank SELECTION XHA-9000通販|ソフトバンクセレクション
CSR8675+CS4350+アンプチップという構成のXHA-9000


さて、上記のリンク先に貴重なXHA-9000の内部構成写真があるのだけど、その写真によると、XHA-9000は以下の通りのチップで実装されているようだ。

Bluetoothチップ:CSR8675
DACチップ:Cirus Logic CS4350
アンプチップ:不明(アナログアンプとのこと)

なお、CSR8675の内蔵チップは16Bitまでしか対応していないため、24Bitのデコードに対応した外部DACが無いとaptX-HDに正式には対応しているとは言えないわけで、さすがに一流メーカーだけあって、この辺りの誤魔化しが無いのは大変に好感が持てる。


そして、その音質に対する評価もオーディオ業界特有の「どれがヨイショ記事なのか全くわからない」というジレンマも当然あるけど、「aptX-HDで聴いたらオーディオファンも満足させるだろう」と”オーディオ評論家”が言い切っているくらいなので、一定のクオリティを期待しても問題ないのだとは思う。


ただし。何かこの構成を見て思うところは無いだろうか。

そう、思いのほかチップのスペックが凡庸なのだ。


例えば、DACチップ(CS4350)のカタログスペックはCirrus Logicのサイトで参照したところ、以下の通りとなっているようだ。


109 dB Dynamic Range
-91 dB THD+N


色々DACネタも過去にこのサイトで色々書いているけど、例えばボクも愛用しているHiFimeの「HiFime Sabre 9018 DAC」が採用しているES9018K2Mなんて「+127dB Dynamic Range/–120dB THD+N」なんてスペックが公表されている。




HiFimeの製品紹介サイトはこちら→HiFime Sabre 9018 DAC


こちらと比較すると、どうしてもこのCS4350のスペックはかなり凡庸な性能であると感じてしまわないだろうか。


また、ヘッドホンアンプ部についてはチップ情報が非公開だったりするのも多少気になるポイントだ。


まあ、最後の最後、音質を決めるのはチップのスペックじゃなくて、回路の設計と「メーカーの音作り」だという話もあり、XHA-9000は、数多くの高級ポータブルオーディオプレーヤーを輩出してきたAstell&Kernが手掛けている事もあって、内部のICは必要十分な物さえ準備できれば、後はノウハウでなんとでもなる、なんて自負もあるのかもしれない。

結局はオーディオなんて、オーディオメーカーや機器(の音作り)との相性でしかないので、Astell&Kernのポータブルオーディオとの相性の良い人は、XHA-9000を迷わず買えば良いとも本気で思っている。


それにしても、だ。

もう少し、「期待感の持てるチップ構成だったら」なんて思うのも素直な感想じゃないだろうか。

この辺り、当然、アンプチップやDACチップを性能だけで選べば、コストも上がり、値段もどんどん高くなる上、消費電力、つまり電池の持続時間にもかなり影響があるわけで、そういった点も考慮した上での最適解なのだとは思う。

Bluetoothレシーバは「小さいことが正義」という側面もあるので、そういった条件を無視して、色々言うのはフェアじゃないとも思う。


でも、多少サイズが大きくなったり、使用時間が短くなっても、例えば通勤・通学時間の2時間くらいは持つとか、バッテリーを交換する事ができるとか、利便性ではなく、音質側に寄せたワイヤレスオーディオもあっても良いと思うんだけど、どうにもそういう物は売れないからなのか、あまり見かけないんだよねえ。


つまり、ボクが感じているハードウェアにおける懸念、それは特にポータブル用途においては、電池の持ちと小型化(およびコストカット)を追及するがゆえ、音質にかけるウェイトが小さくなっているような気がするという事だ。


ちょっと話がずれるかもしれないけど、TaotronicsのTT-BA09も光デジタル入出力をせっかく備えているのに、レシーバーとして使う場合はaptXに対応していないなど、何とも惜しい仕様だったりするのも(トランスミッターとしてはかなり優秀だと思う)、この辺り、最後の最後に音質よりコスト削減を取ったという事なんじゃないかと思っている。




なお、数は少ないのだけど、そういった省電力や小ささではなく、音質自体を重視している製品も少なからず存在している。


現時点ではこの方針だとおそらく、「DACにS/N比120dBのCirrus Logic CS4398、ヘッドホンアンプにはTexas Instruments TPA6120A2を採用、SBC/AAC/aptX/aptX-LLに対応」しているCreativeのE5なんかは結構頑張っているとは思う。




うーん、これとかTT-BA09とかがまずLDACに対応してくれれば、俄然、Bluetoothオーディオもずっと面白くなってくるんだけどね。。

なお、据え置き型で良いなら他にも色々選択肢はあるんだけど。以下のAAC/aptX/aptX-LL対応で、AK4396採用のTSdrenaのHEM-HC-BTRATXなんて結構いいとずっと思っていたり。これもLDACまで対応すればビットレートの懸念が無くなるんだけどね(笑)






Bluetoothオーディオはどこへ行くのか?


さて、まとめよう。

ボクは正直、aptX-LLについてはもう現時点で(現在の技術が許す限りは)ほぼ完成しているんじゃないかと思う程に満足している。テレビ音声の無線化や、移動中のスマホ動画の視聴、その他、音質よりも低遅延が優先される用途であれば、おそらくこれ以上は贅沢と言って良いのだろう。


しかし、音質の観点では、上記に述べた通り、

・圧縮音源を用いた際の再圧縮による劣化の問題
・リアルタイム伝送のオーバーヘッドによるビットレート不足
・小型化&低消費電力化優先で、音質最優先となっていない機器設計

という3つの課題が存在しており、この制約により、「無線は有線を絶対に超えられない」というジレンマがあって、これは「じっくり音楽に浸りたい」という場合にはBluetoothオーディオは適していないと言わざるを得ない状況なんだよね。


外食する場合とか、みんな、少し遠くても美味しい店に行きたいと思うよね?結局はそれと同じなんだよねえ。有線の方が音が良いから、結局、面倒でもガチの音楽試聴は有線のシステムで聴く

つまりこれが、現時点におけるBluetoothオーディオの「音質の壁」なんだよね。


なお、現時点で唯一、これらの課題(というかモヤモヤ)を克服できる可能性のある製品と言えば、例えば、LDACに対応したSONYのMDR-1000Xなんかを導入してFLACの44.1kHz/24Bitあたりで準備した音源(一般的にはサンプリングレートよりビット深度の方が重要と言われている)を最高音質(990kbps)で聴くのが最適解なんじゃないかと思うけど、やっぱり高いし、LDACに対応したプレーヤー(最新のウォークマンやXperia)も必要だったりと、少し敷居が高いんだよなあ。





以上の通り、Bluetoothオーディオは「有線に匹敵する」音質という観点ではまだまだ発展途上だとボクは結論している。

そして、今後Bluetooth規格の実効帯域が拡張され、AACがせめて512kbps以上の伝送に対応するか、新たなaptXシリーズで24Bit対応のみではなくビットレート幅の拡張が実現されるなど、SONY独自のLDAC以外でもビットレート上限の制約を取り払ったコーデックが採用されて来れば、俄然、音質面でも面白くなってくるとは思う。

ただ、これは現時点では実現していない技術の話であり、現時点ではLDAC辺りで誤魔化しながらやるしかないんだろうなあ。


さて。

色々長々と書いてきたけど、でもやっぱり現時点でも「自分のお気に入りのヘッドホンである程度は有線に匹敵しうる音質でワイヤレスオーディオを楽しみたい」なんて皆さんも思わないだろうか。


ボクはそう思う。


というわけで、次回、これらの課題を克服すべく、新たな変態の道(笑)を探る記事を公開したいと思います!!



おっと、やべえやべえ。ネタほとんどバレてる(笑)

でも、おそらく思っているところの先を行きます!!

乞うご期待!!


<2017/8/18追記>

ちょっと想定していた(Chromecast Audioの活用)のとは違う形で「新たな変態の道」が始まっているので(笑)、よろしければこちらもどうぞ!


スポンサーリンク
スポンサーリンク

8 件のコメント :

匿名 さんのコメント...
Kichijo Taro さんのコメント...
匿名 さんのコメント...
Kichijo Taro さんのコメント...
匿名 さんのコメント...
Kichijo Taro さんのコメント...
匿名 さんのコメント...
Kichijo Taro さんのコメント...